CINEMA DISCOVERIES

Profile

枝優花

1994年3月2日生まれ、群馬県高崎市出身。
映画「オーバー・フェンス」や 映画「武曲」などのスタッフをしながら、2017年初長編映画 となる『少女邂逅』を監督。主演に保紫萌香とモトーラ世理奈を迎え MOOSICLAB2017では7回満席、観客賞を受賞、劇場公開も決定した。香港国際映画祭、上海国際映画祭にも正式招待。さらにバルセロナアジア映画祭にて最優秀監督賞を受賞。2019年日本映画批評家大賞の新人監督賞も受賞。
また写真家として、様々なアーティスト写真や広告を担当している。

Information

▼雑誌 装苑「主人公になれない私たちへ」コラム連載中

http://soen.tokyo

▼雑誌 ケトル「AWESOME !」コラム連載中

https://www.ohtabooks.com/qjkettle/

Filmography

〇『少女邂逅』(2017/101min))
 ・2018年第42回香港国際映画祭正式出品)
 ・2018年第21回上海国際映画祭正式招待)
 ・MOOSICLAB2017 長編部門 観客賞)
 ・バルセロナアジア映画祭 最優秀監督賞)

〇『melancholic mellow』(キリンジ 20周年企画)(2018/10min)

〇『放課後ソーダ日和』(2018/YouTube配信 全10話)

〇「恋愛乾燥剤」(オムニバス映画『21世紀の女の子(2019/117min)』の中の1篇)
 ・2019年東京国際映画祭スプラッシュ部門正式出品

〇『スイーツ食って何が悪い!』(2020/テレビドラマ 30min)

 

Close Up
監督の魅力に迫るQ&A

Q. 映画制作をはじめたきっかけは?

映画が好きだったので、映画に関われる仕事に就きたいと思い、映画サークルに入りました。新歓において1年生が映画を撮るというイベントで、自分の班の監督が撮影1週間前に逃げ出してしまい、急遽代わりに監督をやることになってしまった...というのが最初のきっかけ。偶発的に始まりました。

Q.影響を受けた作品、監督は?

『A.I.』 スティーブン・スピルバーグ
『リリイ・シュシュのすべて』 岩井俊二
『母なる証明』 ポン・ジュノ
『クーリンチェ殺人事件』 エドワード・ヤン
『わたしはロランス』 グザヴィエ・ドラン

Q.関心のあるテーマは?

人間の心です。一番理解しがたく、得られない、不条理なものであると思うので。

Q.映画制作の過程で、チャレンジングと感じることは?

良い作品ができるか、誰にもわからないということです。わかりやすいクライアントがいない点で、一番答えが見えないものだと思います。

Q.得意なジャンルは?

細かすぎて伝わらないようなめんどくさい繊細なやりとりが好きです。
痛くて寂しくて少しあたたかいものが得意かもしれない。

Q.監督業の面白さは?

人生でどう頑張ってもこんなに孤独になれることはないと思うぐらいに、孤独になれること。物理的にも、精神的にも。しんどいですが、自分のみたい世界を作りあげるってそういうことなのかなと。

Q.映画づくりでこだわっていることは?

その時私が感じている怒りや憤り、疑問をでいる限り嘘なく描くことです。

Q.映画とは?

人生。

Q.インディペンデントという領域の魅力は?

チャレンジが許されること。限りなく前例のない世界を描くことへの許容。

Q.一緒に仕事をしたい役者は?

ラストサムライからずっと池松壮亮さんが好きですね。

Q.死ぬ前に映画を一本見るとしたら、何を選びますか?

うーん...自分の映画を観て、もっとああできただろ、次はあれを撮りたいって夢見て死ぬかな。

Q.映画を見る時に、何を期待しますか?

映画でしかできないこと。

Q.映画の中のキャラクターとして生きるとしたら、どの映画の誰がいいですか?

ベイブの、ベイブ。あんな風に愛されたい。
それかピンポンのペコ。何かに苦悩しながら自分を信じて飛びたい。

Q.1年に一度だったり、数年に一度など定期的に必ず見る映画は?

ポンジュノの映画ですね。作るうえで欠かせない。

Q.好きな食べ物は?

韓国料理。年に1回韓国に行くほど好きです。

Q.趣味は?

散歩。音楽を聴きながら歩くことで救われてます。

Q.愛読書は?

安部公房

Q.邦洋問わず、お気に入りのスターは?

ポール・ダノ 情けない人間やらせたら右に出る人はいないですね。

Q.居心地の良い場所はどこですか?

映画館。ねちゃうことがある・・。

Q.インディペンデント映画を扱った動画配信サービスに寄せる期待

COVID19以降、おそらく映画や劇場の在り方が変化していくと思いわれます。その中で配信という文化が大きく台頭していく中で、インディーズ映画を盛り上げる未来に繋がるのならばとても嬉しいです。

 

Interview

インタビュー・テキスト:折田侑駿

自分の中にある、「何で?」を映画にしたい

初めて映画を監督したのは、学級委員を引き受ける感覚だった

──枝監督は、どういったいきさつで映画制作をはじめたのですか?

私が映画界に関わりたいと思いはじめた頃は、現在ほど女性監督がフィーチャーされているわけではありませんでした。なので最初は、就職活動をして、配給会社に入ることなどを視野に入れていました。それに大学の4年間は“人生の夏休み”くらいに考えて、いろいろ経験したいと思い、早稲田の映画サークルに入ったんです。そこでは“新歓合宿”みたいなものがあって、グループにそれぞれ分かれて、みんなで映画を撮りました。私のグループでは、男性の方が自分で脚本も用意してきて監督をやることになったのですが、その人が撮影の1週間前に消えたんです(笑)。だから脚本もない。でも1週間後に山中湖で撮ることは決まっていました。それでみんなで慌てて会議をしていたのですが、そこで気がついたのが、0を1にする作業って、大人数でやるものじゃないということです。誰か一人が苦しんで生み出した“1”を、“100”にする作業を大人数でやるのが正しいなと。その流れで、「私がやります」と手を挙げました。学級委員を引き受ける感覚です(笑)。

──思い切りの良さがすごい(笑)。

みんなが心の中で「早く終わらないかな」と考えていたであろうあの時間が、辛くて耐えられなかったんです。でも、もともと物語を考えたりすることは好きでした。小学校、中学校、何か出し物をするときには私が脚本を書いたりしていたんです。なのでそう考えると、どこか私の中にやってみたい気持ちもあったのだと思います。でもいざ取りかかってみても、そもそも脚本のフォーマットを知らなかった......。いまでも覚えているのですが、私のグループについてくれた先輩に書いたものを見せたら、頭を抱えられて(笑)。その先輩が、『ワンダーウォール 劇場版』を監督している前田悠希さんです。その前田さんがずっとついてくださって。私は右も左も分からない中で撮影に入ったのですが、前田さんは私のことをすごく褒めてくださるんです。それが“おだて”じゃなくて、本気で言ってくださっているのが伝わってきました。そういった経験が私は初めてで、ビックリしましたね。このときに「映画を撮るのって楽しいかも」と思えたのですが、一から教えてくださった前田さんのおかげです。

──大きな転機ですね。

投げ出してくれた人のおかげですし(笑)、もし私のグループの担当が前田さんじゃなかったら......と思います。そんな積み重ねの連続でした。

──枝監督は、やはり何か“引き寄せる力”を持っていますね。

本当に周りの方々のおかげです(笑)。

言葉では上手く伝わらないのに、映画だと刺さることがある

──興味・関心のあるテーマは何ですか?

私は人間のズルいところに興味があります。倫理的には反していると分かっているけれど、 どこかで理解してしまう部分があるとか。あと、誰もが幸福になる話は好みではありません。誰かの幸せが成立している裏には、ほかの誰かの我慢や苦しみがあるのだと思います。その積み重ねで、多くのことが成立している。私は幼い頃に観た『A.I.』(2001)に大きな影響を受けているのですが、あの作品は、ロボットである少年がすごく寂しい思いをすることによって、家族が成立していますよね。誰かが傷を負うことによって、違う誰かの幸せが保たれているというのが社会の縮図なのだと、このとき感じました。そういうものに、ずっと興味があります。

──いま現在のことに関してはいかがですか?

いま瞬間的に興味のあることは、自分がぶつかっている壁ですね。いろいろなことに、「何 で?」と思ってしまうことが小学生くらいから変わりません。世の中では常識とされていることが、私は飲み込めなかったりするんです。例えば、「何で夫婦別姓にそんなに厳しいの?」だとか。「それで誰か困るの?」と思ってしまうんです。こういった「何で?」というものが、私の中にはたくさんあります。でもこれを、みんなが“常識”として、してきてしまったがために、どこかの誰かが苦しんでいるのだと思います。だからいつも、この「何で?」を映画にしたいと考えています。言葉では上手く伝わらないのに、映画だと刺さってしまうことってありますよね。映画を観る前には考えもしなかったことが生まれたりもする。これがエンターテインメントのパワーだなと。

──何かを与える、媒体としての映画。

そうです。けれども、例えば直接的に「差別をやめようよ」というような映画を撮りたいわけではありません。先にお話ししたように、人間のズルい部分に興味があります。「差別は良くない」と言いながらもやってしまう、一口に倫理観では語ることのできない、“人間の複雑さ”ですよね。“健全な社会を維持するために、常識どおりにやらないといけない。でも、できない”というものを描きたいと思っています。映画の強みは、それを“問い”として観客に向けて発せられることですね。投げかけられるメディアだと思っています。

──枝監督にとっての「何で?」が、映画に反映されて、世の中的にはある種の“問い直し”になるかたちですね。

はい。でも、賛同して欲しいわけではなく、そこが議論の場になればいいなと。そこに一つの波紋が生まれることに意味があると思っています。

MV、ドラマ、写真、執筆......すべての活動はやがて映画に帰結する

──枝監督は映画だけでなく、MVやドラマの監督、写真家、執筆活動などもされていますよね?

どれもすごく楽しいですが、その中でも、やはり映画が一番大変ですね。企画を立てて、脚本を執筆し、ロケハンをやって......と、こなさなければならないタスクが多い。でもこれが、映画が総合芸術であるゆえんだとも思います。これに対して執筆活動やMVの監督などというのは、もっと瞬間的なもので、“映画作りをバラしたもの”という風に捉えています。どれも大切なものですが、映画で挑戦できないことをMVで試してみたりだとか、すべてはやがて映画に帰結します。それに、一つひとつのお仕事が映画と違うのは、クライアントワークであるということです。つまり求められているものが明確なんです。例えば、「この曲を魅力的にしてください」というオーダーや、執筆の場合はテーマを先方に設定していただけます。その中で「枝さんらしくお願いします」と言われるのですが、先方の方の頭の中にある「枝らしさ」があるので、この“らしさ”を読み解いて臨んでいます。なので、映画とは使う脳みそが違いますね。

──それぞれの活動の成果が、映画に反映されてくるのだろうと思うと楽しみです。

いま動かしている映画の企画があるので、必ず結びつけられるようにしたいです。

──『少女邂逅』は自主映画/インディペンデント作品ですが、ドラマやMVは商業作品ですよね。このメジャーとインディペンデントの作品づくりにおける違いは感じますか?

やっぱりお仕事として携わる場合、友達感覚がなくなりますよね。インディペンデントの場 合、現場に関わるみんなの気持ちを汲み取るという意味で、ある種“思い出づくり”に近い側面があります。なので良くも悪くも、熱が入りすぎてしまいます。でもお仕事の場合は、その作品が自分にとってどうなのかということ以上に、自分に課せられたものを100%こなすことが求められます。これらの違いはありますが、私自身のスタンスはあまり変わりません。周囲の方々の信用を得て作品を作るということに関しては、まったく同じです。

自分なりの愛し方でいいのであれば、映画とは「人生」

──枝監督にとって“チャレンジ”のようなものはありますか?

出来上がったものがどう評価されるのかは、公開されなければ分かりません。ただ、自分にとって満足のいくものが作れるかどうか、毎回怖いですね。作れば作るほど、“過去作”というものが生まれるので、それらと比べてしまいます。「あの作品のときよりも、何か成長できている点があるのか」と。あとは、私の個人的な「こう思われたい」というような邪念を排除するのが大変です。作品にとっては余計なものなので、自制します。それと、先方の期待を超えなければならいというプレッシャーはあります。

──クライアントワークという話にも繋がってきます。

「もう一度あの人と仕事をしたい」と思ってもらいたいですしね。それに、映画の道一本でやっていくのは難しいです。いくつかのお仕事を掛け持ちして回していかなければなりません。それら一つひとつに100%の力を込めるのに、ものすごく大変さを感じています。

──先ほど「“枝さんらしさ”を求められる」という話が出ましたが、そこで注意していることなどありますか?

自分らしさって、自分では分からないじゃないですか。誰かから言われて、「あ、これが自分らしさなんだ」と立体的に見えてくる。みなさんが私に向けて投げかけてくれる単語などを覚えていて、それを上手く利用したいと考えている反面、いい意味で裏切りたいなという思いもあります。そもそも、“自分らしさ”を自分で実践しようとするのっておかしな話なので(笑)。ですが、その“らしさ”が、つまり自分の好みであることだったりもします。例えば、画の色味であったりだとか。このような“らしさ”を感じていただける色味や、演出、カット割りなどは、いろんな作品から影響を受けていることを自覚しています。何か迷ったときには、それらの作品や特定のシーンを見返して、胸を高鳴らせます。良いものは何度観ても良いですね。この胸の高鳴る感覚を、作品づくりに向かう前には生み出すようにしています。たぶん胸の高鳴りを感じた瞬間に、モノを作りたくなるんですよね。このトキメキのようなものを大切にしています。

──やっぱり、モノを作るということが好きなんですかね?

何かができていく過程が好きです。1秒だけでもすごく良い瞬間が生まれれば、「あー、やってて良かったな!」と思います。もちろん、公開して、感想をいただけることも嬉しいですが、アドレナリンが「バーン」と出る現場が好きですね。

──最後に、枝監督にとって映画とは何でしょうか?

うーん......いまのところ、人生の大半を占めるものです。映画が本当に好きな方ってたくさんいますが、自分なりの映画の愛し方でいいのであれば、やっぱり「人生」ですね。映画がなかったら私は何をやっているのだろうな、と思います。一口に「映画」と言っても、その捉え方は人それぞれですよね。なので私にとっては、「創作」という意味も含まれています。

枝優花監督の作品