CINEMA DISCOVERIES

Profile

今泉力哉

1981年、福島県生まれ。
2010年、『たまの映画』で長編映画監督デビュー。2013年、『こっぴどい猫』がトランシルヴァニア国際映画祭最優秀監督賞受賞。その後、『サッドティー』(14)、『知らない、ふたり』(16)、『退屈な日々にさようならを』(17)『パンとバスと2度目のハツコイ』(18)などを発表。オリジナル脚本による恋愛群像劇を多く手がける。2019年4月に公開された角田光代原作の『愛がなんだ』が大ヒット。同年9月に伊坂幸太郎原作の『アイネクライネナハトムジーク』が公開された。2020年も『mellow』『his』が立て続けに1月に公開。今後の公開待機作には、『街の上で』(近日公開予定)と『あの頃。』(21年予定)がある。

受賞歴

◯『こっぴどい猫』(2012/130min)
トランシルヴァニア国際映画祭 最優秀監督賞
◯『nico』(2012/62min)
MOOSICLAB 2012 審査員グランプリ、監督賞

Information

▼Twitter

https://twitter.com/_necoze_

▼最新作『街の上で』公式HP

https://machinouede.com

▼『あの頃。』公式HP

https://www.phantom-film.com/anokoro/

Close Up
監督の魅力に迫るQ&A

Q. 映画制作をはじめたきっかけは?

子どもの頃、じいちゃんに映画館によく連れていってもらっていて。 それで、自然と。

Q.影響を受けた作品、監督は?

たくさんありますが、山下敦弘監督です。

Q.仲の良い監督は?

特にいません。
頃安祐良監督、松居大悟監督くらいですかね、たまに飲む監督。
誰も私なんかと一緒にいたくないんです。
ただ、携帯には100人、映画監督の連絡先が入っています。

Q.注目している監督は?

明らかに自分より年下という意味では
二ノ宮隆太郎、山戸結希、山中瑶子。
この3人はもう個があるので、どれを見ても面白いと思います。

Q.関心のあるテーマは?

恋愛です。

Q.映画制作の過程で、チャレンジングと感じることは?

その瞬間にしかない役者さんの人間味をシーンの中で表現してもらえる瞬間を作ること

Q.監督業の面白さは?

特にないです。
上映後の観客の顔を見れるのは嬉しいです。

Q.映画づくりでこだわっていることは?

俳優がいかにいきいきとして見えるかということ。あとは緊張感。
この2つが揃えば映画は面白くなります。

Q.一緒に仕事をしたい役者は?

山のようにいますが、本当にすごいなと思うのは、
ご一緒した中では、成田凌、若葉竜也、伊藤沙莉。

Q.死ぬ前に映画を一本見るとしたら、何を選びますか?

見ないですねえ。なんですかねえ。
たぶん、自分の映画だと思います。

Q.映画を見る時に、何を期待しますか?

全然、想像ももしないところまで連れていってくれること。

Q.映画の中のキャラクターとして生きるとしたら、どの映画の誰がいいですか?

嫌です、どれも。

Q.居心地の良い場所はどこですか?

喫茶店。

Interview

インタビュー・テキスト:牛津厚信

映画祭に選ばれたり、本当に評価されるような映画の魅力って、その人にしか撮れないものかどうかだと思う

映画との出会い、監督になるまでの道のり

——幼少期から青年期にかけての今泉監督は、映画とどのように触れ合ってこられたのでしょう。

映画館へ行く時は、基本、じいちゃんと一緒でした。でも地元ではハリウッド大作とかしかやってなくて、じいちゃんもアクション映画しか連れて行ってくれなかった。あとは近所にレンタルビデオ屋があって、そこで何本か借りてきて、返しに行ってまた借りて、というサイクルを小中高時代はずっと繰り返していましたね。「作りたい!」という衝動が芽生えたのは高校の頃で、自ずと芸術系の大学を志望するようになりました。

——当時、好きだった監督や、ご自分に影響を与えた作品はありますか?

最初にレンタルで見て、それで名前を知って好きになったのはタランティーノでしたね。

——え! タランティーノ!

『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』とか好きで影響受けました。群像劇という点もそうですが、映像のかっこよさにも憧れて。そういえば、『こっぴどい猫』ではスローモーションでみんなが歩いてお店へ向かうシーンありますよね。あれ、台本に「『レザボア・ドッグス』風に歩く」って書いてましたもん(笑)。

——本当ですか!

あのシーンは本当にレザボアをやりたかっただけなんです。そんな具合にタランティーノは昔からよく見ていて、それで大学に入ると映画に詳しい人がたくさんいてジム・ジャームッシュとかを教えてもらって。だから高校までは全く映画について詳しくなかったですね。一方、上京して映画学校に行き直してから僕が最も影響を受けた監督といえば、間違いなく山下敦弘さんなんです。ワークショップの手伝いを2、3年やったりもしましたし、そこで芝居を作る基礎というか、芝居の見方とか、そういうのをじっくり学びました。だからコメディの作り方やある種のセオリーとか、そういうのは全部、山下さんの受け売りです。

——そうなんですか・・・目から鱗と言いますか。

僕、日本映画にコメディとか笑いの映画ってめちゃくちゃ少ないと思っているんです。むりやり笑わせるっていうか、ここが面白いですよ!っていうコメディ作品はいっぱいありますが、僕、そういうので全然笑えなくて。登場人物たちは真剣なのに、どこかズレてたり、気まずくなったりするシーンをつくりたくて。日本映画はどうしてもそちらの笑いの作り手が少ないと思っていて、僕はむしろそこをすごく意識していきたいという気持ちがあります。

——山下作品に出会った時の衝撃は計り知れないものだったでしょうね。

最初に見たのが『リアリズムの宿』っていう作品で、もうなんか「ヤだな」と思いました。やりたいことをすでにやってる先輩を見つけたというか。で、僕はいろいろ学んだだけでなく、山下作品にエキストラとして出演もさせてもらってるんです。『くりいむレモン』ではその姿がはっきり確認できて、『リンダ リンダ リンダ』では全てカット(笑)。完成版を観ながら一瞬で気づきましたね。「あ、俺の出演シーン、過ぎちゃった! もう出番なしだ!」って。

「こんな人いない」が「そういう人もいるよね」に変わる

——今おっしゃったエキストラ出演やワークショップのお手伝いに加えて、これまでどのようなお仕事を経てこられたのでしょう。またその経験がどのように映画作りに反映されているのかお話しいただけますか。

まず、アルバイトを10個以上しました。それって結局、経験の蓄積でもあると思うんです。コンビニでレジを打つ場面を撮る時も、その方法を知らなかったら演出の時にどれがリアリティなのか迷いますよね。あと、訳のわからない人をいっぱい見てきた分だけ、作っている時に「こんな人いない」にならないというか。「うんうん、そういう人もいるよね」になる。この違いは大きいと思ってます。

——なるほど、なるほど。

接客業が多かったんですけど・・・ラーメン屋、レンタルビデオ屋、パチンコ屋の清掃、あと着ぐるみの中に入るやつとか。家庭教師もちょっとだけ。でも一番長く続いたのは、レンタルビデオ屋と映画館バイトですね。実は、東京の映画館出身で監督になってる人ってめちゃくちゃ多くて。僕は渋谷アミューズCQN(現・ヒューマントラストシネマ渋谷)のオープニングスタッフとし3年くらい働いてましたね。

——そのお仕事で得たものって何かありますか?

あの頃が人生で一番映画館で映画を観ていたと思います。勤務先でかかる作品はもちろんですが、当時は渋谷に多くのミニシアターがあって、映画館同士で無料券を2枚ずつくらい交換しあって、それをめぐってバイト間で競い合ったり・・・。あと僕の初期作品にはバイト仲間が多数出演していて、最初に賞を頂いたのもその仲間と撮った短編です。あのバイト先がなかったら今の自分はないかも、というくらい支えられてました。

——切磋琢磨しあえる場所だったんですね。

そういえば、僕の『his』という映画はファントム・フィルム配給で、上映館の1つが新宿武蔵野館なんですけど、武蔵野館で番組編成を担当している方と、ファントム・フィルムで劇場ブッキングを手がける方はどちらも当時のバイト仲間なんですよ。あの頃の仲間が今や1つの作品を、監督、番組編成、劇場ブッキングという立場で回している。続けているとこんなことってあるんだね、というか。それを知った時、非常に感慨深かったですね。

主人公が「何も成長しない」という魅力

——今泉さんにとって監督業の面白さとは何なのでしょう?

うーん、何でしょうね・・・なんで俺、作ってるんだろうってよく思いますけどね。別にないんですよね。世の中をよくするとか、これを作ったら誰かを助けることができるとか。ゼロではないですけど、あんまりそのスタンスではやってなくて。だから映画の作り手として向いてる、向いてないでいうと、むちゃくちゃ向いてない人だと思っていて。だって早起きとか嫌だし、脚本書くのとか、現場や編集とかも結構きついし、どちらかというと喜びよりも辛い時間の方が多い。でもそういう中でも「何かを表現したい」という想いだけはあって。それを見届けてくれるお客さんの反応で初めて救われるというか。

——なるほど。

僕、学校の美術は「5段階評価で1」だったんです。完全に理系で、今でもいろんな苦手分野があるんですよ。僕1人の力じゃ何も表現できない。でもその点、映画のよさは専門家の力を結集させて1つのものを作れるってところだと思います。多分、最初に見つけたのが「映画」という表現手段だったからこそ、今もまだやれてる・・・。それは本当にラッキーなことだなと思いますよね。

——表現者の衝動に関して言うと、『こっぴどい猫』には書けなかった人が書けるようになるという描写があります。

あの小説家が「書けるようになる」というシーンは、実は妻のアイディアなんです。うちの奥さんも映画監督で(*奥様の今泉かおりさんは’12年の劇場公開作『聴こえてる、ふりをしただけ』の監督として知られる)。映画には、主人公が葛藤を乗り越えて何かを克服するとか、頑張った末に何かを手に入れるという定番の流れがありますが、当時の僕はそういうベタな展開が嫌いで「そういうのじゃないものをやりたい」と。でも、この時は妻に「主人公が書けるようになった方が絶対にいい」と言われて、最終的に「書く」という流れに変えたんです。それによる物語的なカタルシスは確かにあるなと感じたので。でも、『こっぴどい猫』は「書けない人が書けるようになる」話じゃないです。「書かなかった人が書く」くらいの変化です、自分の中では。書けないんじゃない。書かないんです。

——ご自分の考えに固執することなく、目の前の選択肢に対してオープンなのですね。

むしろ何がベストなのかを毎回探ってる感じですね。そっちの方がいいと思ったらそっちを選ぶし。例えば、次の作品『サッドティー』でも主人公の映画監督が「全然書けないんだよね」というところから始まる。でもこちらは結局「書く」ことを一切せずに終わるんですよ。それはもう制作当初から決めていました。今回は絶対に書かせないと。そうやって毎回、前作でやったことや意識したことを次の作品にぶち込みながらやってます。

——今泉作品はそうやって有機的に進化していくのですね。

そういえば、最近、自分の中で1つ明確になってきたことがあるんです。そもそも僕らの人生なんて、映画みたいに何かを成し遂げたい、成功したいと思ってもうまくいかないことの方が多い。それで『愛がなんだ』の主人公なんかも人間的に全く成長することなく物語を終えるわけですが、これを観たお客さんたちからは「自分が肯定された気がした」という感想がたくさん寄せられたんですよ。つまり、「何も成長しないこと」が逆説的に人を肯定する側面もあるんです。そのままでいい、と。たいして変化はないけれどちょっとだけ変わるとか、頑張らない人がど真ん中にいるとか、そういう山のない話で面白くするって、起承転結があるよりも断然難しいけれど、今の自分はどんどんそっちに興味が出てきています。

インディペンデント映画の魅力、作り手へのメッセージ

——インディペントと商業映画、どちらも経験されている今泉監督ですが、インディペンデント映画の魅力についてどのようにお考えですか?

やっぱり作り手がゼロから生み出す世界なので、そこの面白さはすごくあると思いますね。それに対して商業映画は、とにかく物理的な制約がすごくありますから。例えば、撮影が10日間だったら、昼はこの分量、夜はこの分量しか撮れないという限度が出てくるじゃないですか。そうすると撮影スケジュールの都合で、昼のシーンを夜にできないかとか、夜のシーンを昼にできないかという話が絶対に出るんですよ。それってクリエイティブとしては本末転倒な話で。そんな状況がドラマとか映画、すべてにわたって起きています。それを逆手にとって面白くするというのが僕らの使命と思いつつも、ああ、自主映画の頃にはこんな話いっさい出なかったなあ、と。

——最後に、いま映画監督を目指している方、インディーズ映画を作り続けている方に向けてアドバイスをお願いします。

なんか、僕がインディーズ映画を作り続けていた頃に比べると、今の方が全然大変ですよね。誰でも簡単に映像が作れるようになって、いわゆる「映画っぽく見えるもの」がこれほど世の中にあふれかえってるので。でもその中で評価されたり、誰かに届くものを作りたければ、やっぱりその人にしか描くことのできないものというか、その強度だったり、そこを深くしっかり考えていくことに尽きると思いますね。

あともう1つ、これはちょっと具体的な話ですが、僕は今の若手の現状として「俳優の演出ができる人材」がむちゃくちゃ少ないと思っているんです。昔は機材がしょぼかったから、演技がしょぼくても、映像とのクオリティが合致していくらかごまかしが効いたけれど、今では映像の方だけプロと同じHDで撮れちゃう中で、絵が良ければ良いほど芝居の拙さがバレバレになってしまう。だから、もっともっと俳優の演出について興味を持ってほしいです。

僕は昔から、たとえお金がなくても俳優の芝居だけは面白くしようとこだわって作り続けてきました。その甲斐あって芝居のつけ方とか人物の描き方だけは他の人より方法論を思っていると思うんで、現状こうしてお仕事を頂けているのはその点が大きいのかなと。というか、その点だけしかできてないんですが。だからこそ今頑張っている方々には、もっと役者の芝居をつけられるようにとか、人間を見れるように、努力を重ねていってほしいと思います。あと、自分を見つめて、自分にしか作れないものが何かを見つけてほしいです。

今泉力哉監督の作品