CINEMA DISCOVERIES

夜が明け、朝がくる。清々しく優しい関係性がそこにはある

文:牛津厚信

 以前、とある上映会で田崎監督のカンヌ出品作『ふたつのウーテル』(10)を鑑賞したことがあった。15分の短編ながら、主人公の心象とオーバーラップするように夜が更け、そして明け方を迎える映像がとても美しく、もう10年ほど前のことなのに未だ記憶に焼き付いている。

そんな彼女の中編作『海にしずめる』は、これまた語り口が研ぎ澄まされた秀作だ。そこに描かれる特殊な人間模様をひとたび詳しく説明しようと思えば、どれだけ言葉を使っても足りないくらい。しかしこの監督がいざ映画の魔法を用いると、複雑な糸は瞬時にほぐれ、驚くほどナチュラルに関係性が理解できるのだから本当に不思議なものである。
いろいろあった三角関係を直接的に描くのではなく、時間と距離を置いた上で“娘の視点”から描く。このズラしの手法にも脱帽だ。見方によっては深刻なテーマにもなりうる本作を優しい作風へ仕上げるところに作家性が滲み出ているし、父娘の絆を確かめ合ってハッピーエンド、という安易なステレオタイプに逃げ込むことなく、本作でしか到達できない唯一無二の感情を探り出そうとする姿勢にも好感が持てる。

興味深いことに、本作では「あなたが父親です」という答え合わせをしない。結果の行方は俳優たちの表情やリアクション、もしくは観る側の自由な解釈に委ねられている。あるいは電話一本、紙切れ一枚の遺伝子検査の結果などに意味はなく、少女にとっては自分の中でスタートラインに立てたということの方がよっぽど重要だったのかもしれない。その感情の移ろいとオーバーラップする、夜釣りシーンと朝日に照らされた帰り道。またも田崎マジックというべき一連の美しい流れが忘れがたい余韻を添える。

本作の小旅行を通じて少女は、真実を海へと沈めて、自らの胸のつかえをゆっくりと鎮めていったかのようだ。本作のタイトルが「しずめる」と平仮名表記なのは、そこに様々な意味合いを含ませるためだろうか。と同時に、海底から顔を出す「沈没船」というメタファーが、これまたミステリアスで面白い。引き上げられた新たな関係性がいかなる意味を持ち、これからどう展開していくのかは、少女にとって人生の大きな課題となっていくはず。その正体や全貌のほどはまだ誰にもわからない。

 田崎監督の世界観や作家性も片鱗を見せはじめたばかり。今後どのような作品で私たちを魅了してくれるのか、期待して待ちたいものだ。

あなたにオススメ