CINEMA DISCOVERIES

Special Features 田中俊介のDJ vol.1──対談前編

出会いは名古屋のシネマスコーレだった

田中:ご無沙汰しております!(白石)和彌さんとこういった形でお話しさせていただくのは初めてなので緊張してます。それ以外のところではもう何回もお目にかかっていて、最初の出会いは確か・・・

白石:えーっと、シネマスコーレ支配人の木全さんに「会わせたい人がいる」って紹介されて、それで一緒に居酒屋に行った時ですよね。

田中:あ、そうだ!かれこれ3年前ですね。

白石:そこからもう、ベロッベロに酔っ払って、スコーレの前の立ち飲み屋に行って、もうその辺から記憶がない(笑)。

田中:その後はトークショーや映画祭でご一緒したり。大学の上映会にも行きましたね。僕が主演した『恋のクレイジーロード』(’18/白石晃士監督)を上映して、そのあと、なぜか和彌さんも交えて学生さんの前で話すという。

白石:僕、『恋クレ』とは全然関係ないんだけどな、と思いながら。でも坪井(篤史/シネマスコーレ副支配人)さんの誘い方がうまいから、つい楽しそうで行っちゃうんですよね。

田中:そんな中、対談コーナーのゲストを誰でも選んでいいよ、って言われたので、瞬発的に「和彌さんをお呼びしたい!」と思って。

白石:ありがとうございます。

ずっとソフト化されずにいた幻の長編第1作

田中:『ロストパラダイス・イン・トーキョー』って12年前の作品なんですね。僕は、『凶悪』とかいろんな白石作品を見てから、監督の原点ともいうべき『ロスパラ』が気になって、それでソフトを買って。

白石:ずっとソフト化してなかったんです。しないでとっておこうかという案もあったんですけど。「観たい!」って言ってくださる方が多くって、2年前にようやく。

田中:いやもう本当に引き込まれる素晴らしい作品でした。最初にお聞きしたかったのは「障がい」という題材についてです。第一作目でこれらを描かれたのには何か思い入れがあったのですか?

白石:これには経緯がいろいろあって。僕が助監督の頃、制作会社の社長に「監督するための準備をちゃんとしなよ」って言われて、それで助監督をお休みして、企画開発を始めたんです。その頃に紹介されたのが高橋泉くん(本作をはじめ数々の白石作品で脚本を手掛ける)で、彼と一緒に、とある原作モノの脚本を1年半くらいかけてずっと作って、これ以上はないってくらいのものができた。

でもクラインクイン寸前に原作者から急にNGが出たんです。製作中止。もう勘弁してくれよ、ほんと死にたいなって(笑)。オーディションもたくさんやったのに。

田中:本当に直前の直前まで進んでたんですね。

白石:で、その時のプロデューサーが「これは完全に製作サイドの責任です。代わりにお金を出すので、低予算の自主映画撮ったら?」と言われたので「やります!」と。その頃、子供も生まれて、これで芽が出なかったらガチでこんな仕事・・・って言ったらあれだけど。ガチで食っていけないんで。

田中:生活がありますからね、やっぱり。

白石:それで、元々やろうとしていた小説が、女子中学生二人のお話だったんです。それを大人に書き換えて、もう一つの要素としては、僕が生涯で一番好きな映画『㊙︎色情めす市場』(74)にずっとニワトリを連れている知的障がいを抱えた主人公の弟が出てくるんですね。その要素を加えて、そこに障がい者の性の問題とか、いろいろ取材する中で出てきたものを織り交ぜて仕上げていきました。

田中:はあ・・・こんなに紆余曲折のある作品だったとは。それを乗り越えたからこそ、今の和彌さんがあるんですね。

白石:映画っていろいろと人の出会いを呼んでくれますよね。で、『ロスパラ』を見て、一緒に映画を作りたいって言ってくれたのが『凶悪』のプロデューサーなんです。そこから何をやりたいかずっと話し合って。でもそんな状態だとお金が出ないから、いい加減、働いてくれって嫁に言われて。

田中:まじっすか・・・。

白石:近所のスーパーに面接行ったんです。そしたら僕、落ちたのね。

田中:落ちた!?

白石:なんでだよ(笑)って思って。そしたら半年後、『凶悪』で大忙しの時に着信があって「前に面接来てもらった白石さんの携帯ですよね?人手が足りなくなったんで、来てもらえませんか?」って。

田中:そのタイミングかいっ(笑)!

「同じ目線になるというのが、キーポイントになるだろうなと」

田中:僕も少なからず皆さんと同じように、障がいを持った方と交流する機会はあるのですが、そんな方に対して「わかるよ」というか、一方的な「理解してます」感を出すのも違うなと思いますし、障がいを持った方のための社会づくりもまだまだ課題が山積していると感じます。それでも本作ができた数年後には、障がい者を雇用する法律が施行されたりして、世の中は少しずつ変わってきてるのかなと思ったりもして。監督はそういった部分をどう思われますか?

白石:同じ目線になるというのが、今回のキーポイントになるだろうなと感じていました。それで自閉症の方って、自分の思っている感情をストレートに表現できなかったり、受け止められなかったりするけれど、基本的には同じ感情を持っているそうなんです。だとすれば、それは彼らが受け止められないんじゃなくて、実は俺らの方が受け取れてないんじゃないのか、って思えたのが一つ。

田中:なるほど。

白石:あと、何をもって障がいと健常の差というんだろうか、と。生命力という点での強い弱いがあるとして、じゃあ彼らは弱い存在なのかなって考えていった時、取材中に出会った多くの方たちは、むしろ俺らよりよっぽど力強く生きておられたんですよね。ですから、障がいというものを扱ってはいるけれど、あんまり障がいがどうこうということではない部分で表現できたらいいなと思ってましたね。

田中:一つ強烈に印象に残ったシーンがあります。お兄ちゃんがボートを漕いで行くじゃないですか。その様子をTVで面白がって報じていて、それを見ている(従業員役の)和彌さんが指を差して笑っている。当事者と世間との温度差のようなものを、監督自らが体現しているのかなとも思えたんですが。

白石:いやもう、それはお金がないから(笑)。

田中:お、お金の問題!?

白石:川口の工場で撮影したんですけど、このシーンにはエキストラが必要ですよねってプロデューサーに言ったら、その辺で働いているおじさんに声かけてくるって言うわけです。いやいや無理だって。仕方がないから僕と助監督が演じることに。だからね、あれは非常に短絡的な理由なんです。

田中:僕、勝手に深読みして感動しちゃってました(笑)

白石:でもね、田中くんが指摘する側面は確かにあるなって思います。自分で演じてみて初めて気づくことってありますよね。そうやって知った、ああいう人たちの目線って、今日に至るまでの幾つかの作品で繰り返し描いたりもしてるんで。
構成・文:牛津厚信

 

田中俊介
1990年愛知県生まれ。映画、舞台、ドラマなどで活躍中。主な映画出演作に『ダブルミンツ』 (内田英治監督)『ゼニガタ』(綾部真弥監督)、『恋のクレイジーロード』(白石晃士監督)、『デッドエンドの思い出』(チェ・ヒョンヨン監督)、『ミッドナイトスワン』(内田英治監督)『タイトル、拒絶』(山田佳奈監督)など。公開待機作に『恋するけだもの』(白石晃士監督)などがある。


白石和彌
1974年生まれ、北海道出身。 1995年、中村幻児監督が主催する映像塾で映画製作を学ぶ。以後、若松孝二監督に師事し、フリーの助監督として行定勲監督、犬童一心監督などの様々な作品に参加。 2009年、『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編初監督。釜山国際映画祭ニューカレント部門、ドバイ国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭などに出品。 2013年、『凶悪』で新藤兼人賞2013金賞、第38回報知映画賞監督賞、第35回ヨコハマ映画祭作品賞、第37回日本アカデミー賞優秀作品賞、優秀監督賞などを受賞。 2016年、綾野剛主演『日本で一番悪い奴ら』やNetflix「火花」を監督。 2017年、『牝猫たち』がロッテルダム国際映画祭に出品。『彼女がその名を知らない鳥たち』は、トロント国際映画祭に出品され、第39回ヨコハマ映画祭監督賞と第60回ブルーリボン監督賞を受賞。 2018年、『サニー/32』『孤狼の血』『止められるか、俺たちを』の3作品で第61回ブルーリボン監督賞、日刊スポーツ映画大賞監督賞を受賞。 2019年、『麻雀放浪記2020』『凪待ち』『ひとよ』を監督し、キネマ旬報監督賞や芸術選奨新人賞などを受賞。