CINEMA DISCOVERIES

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ディスカバリー・ガイド

カメラと被写体の関係性がスパークする伝説シーンを目撃せよ

原一男が撮るドキュメンタリー作品の主人公は皆、圧倒的な存在感を放つ者ばかり。本作の「武田美由紀」も同じだ。

原との間に子供をもうけ、その後、精神的な自由を求めて彼の元から離れていった彼女に、今こうして追いすがるようにカメラを向けることは、原の未練であると同時に、ドキュメンタリー作家としての意地と覚悟でもあるのだろう。かくも本作は男女の呼吸と言葉の応酬とでできているわけだが、中でも特筆すべきは出産シーン。熱気のあまりピンボケなのが逆に生々しく、彼らの表現欲求と信頼、そして互いに全身全霊を込めて挑み合う関係性がすべて結晶化した場面に思えた。映画史に残るこの伝説の一瞬をあなたはどう見つめるだろうか。

インフォメーション

タイトル:極私的エロス・恋歌1974

あらすじ

全裸の臨月の女性が、こちらを真っ直ぐ見ている。今は「元妻」となった武田美由紀を、正面・背中、そして横から捉えた、原一男によるスチール写真だ。
原は返還前後の沖縄に降り立ち、武田を訪ねる。彼女は「すが子」と呼ばれる女と暮らしていた。「何も言えんのか」「テメエの事も分からんのか。はっきりしないじゃないか。何で嫌気さしたんか」「うるせえクソガキ」ひたすらすが子を罵倒する、武田の姿がそこにはあった。原の訪問が決定的な亀裂を走らせたのか、二人の生活は終わりを迎える。 在沖縄米軍基地から解放された黒人たちが陽気に踊る<バー銀座>。そこに、見事なアフロヘアに長くてカールしたつけまつ毛の14歳の少女・チチがいる。彼女は黒人との子どもを妊娠していた。武田は言う。「解放感より戦慄感の方がずっと強い。私生児に徹しきるよ、野性児にするぞ。そんなガキがいいさ」「これは二年前からの約束だけど、私がひとり出産するところを原くん、フィルム撮っといてね。アンタに出産の場面を見せたいのさ」そう武田は言い放つ。
東京に戻った原のもとに、武田からの手紙が届く。沖縄の男との子どもを妊娠しているという。原はふたたび沖縄に飛んだ。武田はすでに沖縄の男と別れ、ポールという黒人GIと同棲していた。男性による女性支配への反発、ポールへの不満を並べ立てる武田を前に、原はいら立ちを隠せない。「じゃあ要するにポールって人間が、好きなんだな?それならなんでそこに、黒人って問題が出てくるんだよ!!」「じゃあポールとの間に、白いガキが生れてくるか!!」武田にマイクを向けながら、原は泣いてしまう。その姿を見た武田は言う。「……なんで泣く?」
現在の恋人・小林佐智子と一緒に原は、三度目の沖縄へ向かう。「武田さんとちゃんと対峙できなかったら、私はイヤなわけ」マイクを持ちながら小林はそう、武田に宣言する。「口だけは上手いからね、この男は」「アンタだけじゃないのに、これ(原)が寝た女は」「これと一緒に仕事することは、出来ないね」「まあいま惚れているアンタには、分かんないね」武田は原のダメさを列挙する。
白いシーツの上で、武田が喘いでいる。カメラをかついだ原は腰を動かしながら、行為のさ中の彼女の表情を、撮りつづける。ゆっくり上下するカメラ――呆けた表情でカメラを、すなわち原に注がれた眼差しが、美しい。
武田は沖縄を去ることを決めた。沖縄への想いを綴ったビラをAサインの女に配りたい。そう考えた武田は幼な子・零の手を引き、夜のコザを歩く。
沖縄を離れる日がやってきた。武田は零を抱きフェリーに乗っている。錨が上がる、汽笛が鳴る、島が遠ざかってゆく。甲板で潮風に吹かれる母子。
東京の原のアパート。いよいよ自力出産に臨む武田を、陣痛の波が襲う。畳の上にビニールと新聞紙が敷かれている。そして、あらたな命がこの世界にゆっくりと、誕生を告げる――。

スタッフ・キャスト

監督・撮影:原一男
製作:小林佐智子
録音:久保田幸雄
編集:鍋島惇
音楽:加藤登紀子

1974年/98分/ドキュメンタリー

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